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出版社は資本主義に向いてない(第一回) 寄稿・日本文芸社 竹村 響

こんにちは。メディカム編集部 経営企画チームです。
メディアドゥグループは小説やマンガなどの有力な原作創出に加え、各社との相互連携による映画化・ドラマ化などのマルチコンテンツ展開を推進しています。作品輩出において中心的な役割を果たすメディアドゥ子会社が、創業約70年の出版社である日本文芸社です。

同社は現在、デジタル施策強化、出版部数の適正化などによる収益改善に取り組んでおり、2025年2月期第2四半期からの業績は回復基調で推移しています。メディカムでは、長年出版業界に携わり、2024年5月に同社の代表取締役社長となった竹村響氏による寄稿を連載します。

日本文芸社 代表取締役社長 竹村 響(たけむら・ひびき)

2000年同志社大学卒業後、株式会社竹書房入社。編集職を経て、電子書籍黎明期よりデジタル事業を牽引。執行役員、取締役を歴任し、竹書房の再建に貢献した。2020年に同社を退職。漫画コンサルタントとして、出版社や書店など延べ15社の顧問に就任。2023年12月、日本文芸社取締役に就任。2024年5月より同社代表取締役社長。

竹村響 Hibiki Takemura – note: https://note.com/thibiki


はじめに

世界最古の長編小説と言われる源氏物語が生まれたのは西暦1000年ごろ。それが「物語」の始まり。グーテンベルクが活版印刷を発明したのが西暦1450年ごろ。それが「出版」の始まり。対して資本主義が生まれたのが西暦1700年代後半。日本に株式市場ができたのは1878年。グーテンベルクの400年後。

出版、本というものは資本主義ができるはるかはるか昔からある。

だから、そもそも出版業は資本主義の事情を勘案してできていない。

しかし。

そんな資本主義とは関係なく「そこにあった」出版も、資本主義と付き合っていかなければならない。そんな時代がやってきた。それが現代の株式資本主義超上位社会。

だから今回「出版社と資本主義」についてお伝えしたい。

なぜなら、自分がまさにこの20年ほど出版社で資本主義を生き残るための戦いを続けてきたから。

そしてこの「出版社を資本主義に落とし込む物語」が、いろんな出版社や銀行、ファンド、また業界参入を考えている全ての企業や個人に届いて欲しい。これは多分これからもっと多くの人に必要になる物語だから。

出版ビジネスをするわけじゃないんだけど、っていう皆さんは気楽な気持ちで。堅苦しい話ではあるけれど我々エンタメ業界。エピソードはご機嫌だから。

事業承継

物語の幕開けは戦後、焼け野原になった東京から。

空襲で焼け野原になった神田駅前の土地を買い集めて大成功した不動産王が、土地も建物もいっぱいあるので何か商売でもするか、と様々なことを始めさせた中のひとつに出版業、日本文芸社が。何事にも目端が利く人とはいるもので、取次っていう会社ができたそうでそこに本を作って持っていくと買い取ってくれて日本中の書店に運んでくれるらしいぞ、そして飛ぶように売れるらしいぞ、みたいな情報をどこからか仕入れてくる。これは儲かりそうだぞ、と。

最初に作った本は「吃音の治し方」。それから70年たった今でも日本文芸社が得意とする「実用書」とか「健康書」と言われる「役にたつ本」のど真ん中。まだそこからピボットしていないのはすごい。現代ビジネスにはない根気と迫力がある。そういえば社名の付け方も社の誕生から一度も生み出したことのない「文芸」を入れた日本文芸社。文芸に憧れ続けて70年。それもまた根気の良さ。

さておき目のつけどころはあっていて順調に成長していく日本文芸社。ところが残念なことに創業社長が若くして急逝。

近年、日本が良かった数十年前に会社を立ち上げたオーナー社長達が続々と引退の時を迎え、多くの出版社や中小企業の課題となった事業継承問題が1970年代に早速発生してしまう。例えば去年オーナー社長が急逝したワニブックスさんは同じ出版社である講談社グループ入りし、資本協力と経営の助けを求めることにしたし、また数年前一迅社さんは共同創業者のお二人が事業継続のためにと判断されて講談社さんを頼ることに。

同業界の大資本に引き継いでもらうのは一つの選択。一迅社さんは資本を安定させつつ『金田一少年の事件簿』の大ヒットなどで週刊少年マガジンが部数で少年ジャンプを抜いたあの1997年に編集長を務めていたレジェンド野内社長が就任。エンタメを理解して会社を興隆させた創業経営者からまたエンタメを理解している経営者に引き継がれ、さらに資本力までがもたらされることで、さらなる安定を経営にもたらす好循環。

ではひるがえって、創業者が亡くなった時の日本文芸社の選択は?
日本文芸社の雑誌に広告を入れてくれていた代理店、旭通信社を頼ることに。取引のある企業の中から大きくて勢いのあるところという選択。経営は送り込まれてきた出版業の素人だけど、時代も良かったし利益も出ていたから良きにはからえ。何せ親会社は右肩上がり。勢いのまま名前も変えたアサツー ディ・ケイ(現・ADKホールディングス)は東証一部上場という大企業となり、結果として日本文芸社はその子会社に。うまく資本主義の波に乗れた選択。

ところがこのアサツー、調子が良すぎた。さらに上を目指し、まさに資本主義の論理に則ってWPPグループという世界規模で大きな広告代理店と資本・業務提携。資本主義の企業たるものその意気や良し。しかし、時を経て何かの拍子にアサツーはベイングループという投資ファンドに取り込まれ上場廃止に。これもまた実に資本主義の荒波。

この激動、年数十億円の売り上げの日本文芸社から見れば数兆円、数十兆円規模の企業の話であり、雲の上の話。しかし現代企業はグローバルビジネスの余波を回避できない。本業と関係ない子会社なんて整理しろ、と。数十年の蜜月も終わる時はそんなもの。急に宣告される別れの季節。

そして、別れる時に冷たいのは人間も企業も一緒なのか。手放す子の今後より、親の早く売れ、という言葉の重たさ。一番売りやすい相手に売ってしまえ。時は2016年。現れたのはM&A市場を席巻していたRIZAPグループ。成長のため、実に株式市場の仕組みをハックしたM&A戦略をとっていた「ザ・株式資本主義」RIZAP。最も資本主義的である企業。それはつまり最も出版社と相性が悪い企業。しかしむしろだからこそ買収されてしまうのが資本主義。恋も買収も相性が合うのは難しい。

案の定、何もかもがうまくいかない。結局買収早々にRIZAP全体の不振と方針転換で、再び日本文芸社はM&A市場で売りに出る。そこに手を挙げた数社の中の一社がメディアドゥ。時は今から4年ほど前の2021年の3月。やっと今の日本文芸社の形に辿り着く。

振り回されている! そう。資本主義の荒波に揉まれすぎてる。本を出すという出版社である実業は変わらないまま親会社がその時その時の勢いある上場会社に変わっていく。

そして新たに東証プライム上場企業メディアドゥの子会社となって4年。黒字だった日本文芸社は突然2億円の赤字を出した。なぜそんな赤字が? その理由がなかなかわからない。しかし上場企業としては対応が急務。そこで呼び出されたのが自分竹村。さてこの日本文芸社を立て直さなければ。

どうやって?

資本主義に向き合って。

以上の物語から導かれる二つの指針。

  • 資本主義に振り回されるのではなく資本主義を乗りこなす出版社に
  • さらには「東証プライム上場会社の子会社」として「説明」のできる出版社に

IR

出版社が資本主義に向かない理由いくつかのひとつが「来年売れるとしたとて何が売れるかはわからない」。

これまで出版社が資本主義になんとかアジャストできていた理由があった。それが「定期誌」。毎週毎月、定期的に発売される雑誌は、どれくらい売れるかの計算がつきやすい。売上が毎月下がっていくとしても下がり幅の予想はつく。

ビジネス用語で言うところのキャッシュカウ。これが出版社にもあった。ところが売上減によって出版社はこの定期誌を辞めてしまう。赤字だったらそれはもちろん間違った選択じゃない。そして減った売上は、コミックスや書籍、ムック。他の何かでカバーする。そこからヒットが出て定期誌があったときを上回ったりもあったり。

けれど。あくまでその売上は「今年出たもの」。例えば今年も去年も売り上げは50億円だった。しかしその中身は去年が「迷い込んだ村でめっちゃ怖い目に遭うビレッジホラー漫画」が大ヒットした50億円で、今年は「自律神経を整えたら人生が良くなるという健康書」が大ヒットした50億円。

じゃあ来年は? もちろんこちらの見込みもある。「熊が大暴れするアニマルパニックホラー漫画」と「某人気YouTuberのビジネス成功本」が大ヒットして50億円の売上を予定。しかし当然もちろんこの2作品、まだ影も形もない。作る予定と成功する気概があるだけ。いや、予定さえなくて気概だけの時も多々。

それ、株式市場に言えるのか、って話。

本当にそうなると思ってるし、実際過去にはそうなってきたし、本当にそうなったりするんだけど(この辺りが出版社経営の勘所)、でもそれに言語化できるほどのロジックはない。なのに毎年同規模の売上が出るのも不思議な話。でも株式市場は不思議な話ではすませてくれない。

そう。定期誌がなくなったことで現代の出版社は劇的に「説明」が難しくなった。

説明、つまり「IR」。

親会社が上場企業である以上、その子会社である出版社も投資家たちに対しての説明責任、IRの義務を負う。
だからまず必要なのは「IR」。
投資家向けの言葉「IR語」を使って出版社を説明する。
それに必要なのは? 説明に沿った予算組み。予算を組める組織内の体制。その予算を実行できる組織、人材。

それは多くの出版社にない仕組み。何せ資本主義から距離を置いてきた。資本主義に振り回されてきた日本文芸社でもやっぱりない。
あるのは本や漫画を作れる編集者たちとそれを支える営業組織体と総務だけ。

そんななか出版社を資本主義の文脈で説明する。
それがこれからの出版社に求められていくだろうこと。

というわけで、さあこの「熊が大暴れするアニマルパニックホラー漫画」と「某人気YouTuberのビジネス成功本」が来年売れます、というのをIR語で投資家たちに説明しよう。

どうやって?

自分の説明はジャクソン・ポロック。
そう、このビジネスの本質は「制御された偶然」だ。

(続)


立て直しのさらに具体的な日記は竹村個人のnoteでも→(https://note.com/thibiki

「出版社は資本主義に向いてない」(第二回)


【お詫びと訂正】

本記事について、深いお詫びとともに、2か所の一部表現を訂正させていただきます。


「例えば去年オーナー社長が急逝したワニブックスさんは同じ出版社である講談社グループ入りして、資本協力と経営の助けを求めることにしたし、また数年前一迅社さんは、同じ理由で、創業者さんが講談社さんを頼ることに。」
と表記した部分は、一迅社様は創業者様(共同創業なのでおふたりいらっしゃいます)が一迅社様としての選択の上で講談社様のグループ入りをしたということで、決して経営者がお亡くなりになられたであったり、緊急事態であったりという意味での事業継承ではありません。「同じ理由」という表現が大変わかりづらく、誤解を招きやすい表現でした。深くお詫びいたしますとともに、原文を
「例えば去年オーナー社長が急逝したワニブックスさんは同じ出版社である講談社グループ入りし、資本協力と経営の助けを求めることにしたし、また数年前一迅社さんは共同創業者のお二人が事業継続のためにと判断されて講談社さんを頼ることに。」
と訂正させていただきます。


「レジェンド野内社長が就任。途端に『ヲタクに恋は難しい』が大ヒットしたりの快進撃。資本の安定が経営に機動力をもたらし、エンタメを理解している経営者がさらなる安定を経営にもたらす好循環。」
と表記した部分ですが、これは筆者の事実誤認であり、『ヲタクに恋は難しい』のヒットは野内社長就任以前のことでした。また、当時の代表を務められていた共同創業者のお二人ももちろんエンタメを理解している経営者であり、間違いであるうえ、大変失礼な表現になったことを深くお詫びいたしますとともに、原文を
「レジェンド野内社長が就任。エンタメを理解して会社を興隆させた創業経営者からまたエンタメを理解している経営者に引き継がれ、さらに資本力までがもたらされることで、さらなる安定を経営にもたらす好循環。」
と訂正させていただきます。

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