MESSAGE
メディアドゥが向き合うべき人的資本経営に対する考え方
YASUSHI FUJITA
代表取締役社長CEO / 藤田 恭嗣
藤田 恭嗣

#1 メディアドゥの持続的な成長を支えるもの

私はこれまで約30年にわたり、社長として経営の舵を取ってまいりました。その間、実に様々な経験を積み重ねてきましたが、常に感じているのは、「経営は人を抜きに語ることはできない」ということです。あらゆる物事の根幹には、人と人との関係性やコミュニケーションがあると確信しています。

近年、「人的資本経営」という言葉を耳にする機会が増えてまいりました。当社においても、この考え方はますます重要性を増しており、2023年9月1日に開催した下期の方針説明会において、今後の経営における2つの重要な柱を社員に向けて発表いたしました。

ひとつは、株主との視点をより強く共有し、利益創出へのこだわりを明確にすることで、社会における当社の存在意義をさらに高めていくための「EPS経営」。もうひとつは、メディアドゥらしい組織文化を育み、社員一人ひとりが最大限に力を発揮できる環境を構築することを目指す「人的資本経営」です。

この「EPS経営」と「人的資本経営」の2本柱こそが、これからのメディアドゥの持続的な成長を支える中核的な経営方針であり、当社の未来を形づくる重要な礎であると考えております。

人的資本経営とは、人をコストではなく資産として捉え、社員への投資を通じてその能力を高めることで、社員の集合体である組織全体の力を向上させるという考え方です。その実現にあたっては、どのような教育を実施し、どれほどの投資を行ったか、そしてその結果として離職率などのKPIにどのような改善が見られたか、といった情報を公表し、社内外のステークホルダーと共通の認識を持つための仕組みを構築することも含まれます。

人的資本経営を進めるうえで、私が最も重視しているのは、「メディアドゥとはどのような存在であるべきか」という根本的な問いに対する明確な答えを持つことです。

#2 社是「成長と可能性」が表す、メディアドゥの人間関係

当社の社是は「成長と可能性」です。この言葉には、私自身の原体験が込められています。創業時は20歳だった私も、30年が経つ今では大きく成長したと感じています。人は、抗えない「時間」という流れの中で、誰もが変化し、成長していきます。そして成長を実感したとき、人は自然と自分自身の中に未来に対する希望や可能性を見出し始めます。その未来への可能性は、決して自分一人にとどまるものではなく、共に働く仲間や関係者、そして社会全体にも広がっていくものだと私は考えています。人が成長すれば、以前は理解できなかったことが理解できるようになり、できなかったことができるようになります。その変化を互いに称え合い、未来に期待を持てる関係性こそが、健全で活力ある組織文化を育てる礎になります。

私は、ここで働く人たちの人間関係が良好で、その一人ひとりが「未来にわくわくできる」と実感できるような会社をつくりたいと願い、この社是を掲げました。

実際、当社に入社した多くの社員が「メディアドゥは本当に人が良い会社だ」と口にしてくれます。上司や先輩、同僚が丁寧に教えてくれ、困ったときには手を差し伸べてくれる。そんな温かい人間関係の中で、「働きやすい」と感じてくれる社員が増えていることは、経営者として大きな喜びです。

もちろん、まだ改善の余地は多く残されています。制度や仕組みの整備、働く環境のさらなる向上など、課題は尽きません。しかし、経営チームと社員が一丸となり、互いを尊重し、より良い職場を創っていくことが、人的資本経営の実現につながると考えています。

#3 どんな時代にも存続するという強い意志が、企業の持続可能性を高める

私がもうひとつ強く掲げているのは、「この組織が100年続くこと」です。

私は、会社とは、社会にある何らかの課題を自らの力で解決したいという、誰かの強い思いから始まるものだと考えています。その思いに共感する人々が内外から集まり、一人では成し得ない課題に挑み、やがてその課題が解決されれば、次なる課題に向けてまた挑戦を続けていく──会社とは、そのように社会にある課題解決を繰り返しながら進化していく存在です。

ここで重要なのは、たとえ創業時に一人の思いから始まった会社であっても、そこに人が集い、組織が生まれ、やがて営みが育まれていく。だからこそ、会社は社会課題の解決者であると同時に、そこに集う人々の生活と文化を支える存在であり続ける必要があるということです。

会社の栄枯盛衰は、時代の変化や経営力、組織力によって左右されるものですが、どのような状況においても最も重要なのは「続くこと」だと私は考えています。仮に会社に“終わり”があると意識された時点で、そこからは組織の最適化や縮小の方向に向かってしまい、新たな社会課題に挑む意欲を失ってしまいます。

だからこそ、「どんな時代の変化があろうとも会社を存続させる」という強い意志を持ち続けることが重要です。未来が続いていくという前提で組織が成り立つことで、今この瞬間における選択や行動の質が変わります。社員一人ひとりが、「自分の働き方が次の世代の未来に影響を与える」という意識を持って行動できるようになることが、持続的成長の源泉になると考えています。

100年後、今ここで働く人たちは誰一人、確実にこの会社にはいません。しかし、今ここで働く私たちの仕事は、未来の誰かに必ず引き継がれていきます。社員自身が、「自分の子どもをこの会社に入社させたい」と思えるような会社を、自らの手でつくっていく。そのような視点を持って日々の仕事に向き合えることが、企業の持続可能性を高めていくのだと思います。

#4 未来という“縦のつながり”を常に意識すること

私は、人が働き、暮らしを営むうえで、働く環境はその人にとってできる限り良好であるべきだと考えています。そして、その中でも最も大切なのは“人間関係”だと確信しています。この人間関係とは、今を共に生きる人々との“横のつながり”だけでなく、未来に生まれるであろう、まだ見ぬ人々との“縦のつながり”も含まれるべきです。私たちの行動は、将来の世代に必ず何らかの影響を与えます。だからこそ、今この瞬間に築く人間関係の質が、未来の社会の在り方をも左右するのだと私は考えています。

このような考え方は、創業から30年間、メディアドゥの経営を担ってきた経験から得られたものだけではなく、実は私の幼少期から培われた価値観でもあります。

私の生家は何百年と続く本家であり、幼い頃から母に「あなたは跡取りなのだから」と教えられて育ちました。自分は祖先から受け継いだバトンを、次の世代へと繋ぐ責任がある──そのような意識を、子どもの頃から持ち続けてきました。

だからこそ、メディアドゥが上場を果たした2013年から、私は人口が1,000人を大きく下回る限界集落となった故郷で、地域の持続可能性を高めるための事業を複数立ち上げてきました。今ではそれらの事業は、グループ全体として営業黒字化の見込みが立ち、地域経済の一角を担うまでに成長しています。

中でも最初に着手した柚子の事業は、地域の農家の皆様と共に取り組んできた結果、今や日本中、そして海外でも柚子を栽培し、グローバル展開も視野に入る段階にまで成長してきました。

こうした成果は、「消滅可能性都市」とも言われる地域において、そこに住まう私たちが未来への希望を捨てず、課題に真摯に向き合い続けてきたからこそ得られたものです。故郷は今、長く続いてきた右肩下がりの流れを断ち切り、V字回復の兆しを見せています。

いま、社会はテクノロジーの急速な進化、気候変動、人口減少といった不確実性の高い時代に突入しています。そのような中で、自らの置かれた状況が厳しくなったとしても、今を諦めず、未来に希望を持ち、挑戦を続けることで、地域も企業も存続可能性を高めていけるのだと私は信じています。

未来に不安を感じたときこそ、まずは目の前の課題に前向きに取り組む姿勢が求められます。そして、課題が大きければ大きいほど、一人ではなく皆で力を合わせることが不可欠です。メディアドゥも、日本の各地域も、未来を信じて前向きに努力を重ねていくこと──そして良好な人間関係と精神的な豊かさがあるからこそ、持続していけるのだと私は確信しています。

#5 「100年続く会社」へと導くための礎

メディアドゥは、2026年4月1日で設立30周年を迎えます。私自身は、これからも変わらず会社の未来を切り拓くことに全力を尽くす覚悟ですが、同時に、いずれ私が経営の現場を離れる日が来たとしても、次の世代がさらにこの会社を成長させていけるよう、後継体制の準備を着実に進めていく必要があると考えています。その備えとして重要なのが、メディアドゥという会社が何を大切にし、どう経営されてきたかを「言語化」し、次の世代に明確に伝えていくことです。それは、この会社で人を育てるという営みを、より意図的に、かつ持続可能な仕組みとして根づかせていくことにも繋がります。

人は「事業」にではなく「会社」に就職します。だからこそ、メディアドゥがどのような価値観を持ち、どのような組織文化を築いているのかを明文化し、共有していくことが欠かせません。社員一人ひとりがそれを理解し、人を大切にしながら良好な人間関係を築いていくことで、誰もがこの会社の未来にわくわくしながら働ける環境をつくることができると信じています。

これまで私は、経営者として会社の理念や戦略、そして歴史について語ることはあっても、「どのように経営してきたのか」という視点で体系的に言葉にすることはしてきていませんでした。

そこで30周年を契機に、現執行役員を対象とした経営合宿を立ち上げ、私の経営観、人との向き合い方、組織の言語化プロセスなどを、実体験に基づいて解像度高く共有する取り組みを始めています。

この経営合宿の目的は、執行役員が単なる「業務のトップ」から脱却し、「経営を担う」立場への意識転換を図ることにあります。従来、執行役員は会社の方針を理解し、それを組織内に浸透させる役割を担ってきましたが、今後は、会社が何を成すべきかを自ら考え、全体観を持ってその意志を言語化し、自分の言葉として語り、導いていくことが求められます。

そのためには、単に事業部門を統括する視点ではなく、メディアドゥという企業が社会においてどのような存在であり、何を使命としているのかというマクロな視点を持ち、企業全体を俯瞰する能力が必要となります。これまでのように「業務のプロフェッショナル」としての視座に留まるのではなく、「組織全体を導く存在」としての思考と行動を身に付けていく必要があります。

私は、この取り組みが将来にわたってメディアドゥを持続可能な組織として成長させていく基盤になると考えています。そしてそれは、社員一人ひとりの働きづらさを少しずつ減らしていくことで、何故自分がこの会社で働いているのかを感じられる職場環境をつくっていくための出発点にもなるはずです。

30周年という節目を迎えた今、私はこれまでの経営の軌跡を振り返り、言語化し、共有することで、メディアドゥを「100年続く会社」へと導くための礎を築いていきたいと考えています。社員一人ひとりが「この会社に入ってよかった」「あなたに会えてよかった」と言い合えるような組織をつくっていくことが、私自身の次の役割であり、将来、私自身が“よき祖先”と呼ばれるような存在になるために、これからも努力を続けてまいります。