こんにちは!メディカム編集部 経営企画チームです。
日本のコンテンツは、海外からどのような目線で見られているのでしょうか。メディアドゥ 電子図書館推進センター マネージャー・鹿室桃汰さんが2025年8月に北米を訪問し、現地の図書館や書店、電子図書館プラットフォーム・OverDrive社を視察しました。そこで見えてきたのは、翻訳された日本のコンテンツを求める確かな需要と、海外展開に向けた具体的な可能性です。メディアドゥが本格化させる海外展開戦略とともに、北米市場の実態をレポートします。
海外展開を支援するメディアドゥの新戦略
現在、メディアドゥは中期経営計画における成長戦略の一つとして「海外展開」を掲げ、日本のコンテンツを世界に届ける取り組みを本格化させています。国内出版社が保有するコンテンツを、メディアドゥが「電子書籍」「紙書籍」「オーディオブック」といった多様なフォーマットにマルチユース化し、世界中の読者に届ける──これが「MORE CONTENT FOR MORE PEOPLE!」というビジョンの実現です。
(メディアドゥ 2026年2月期 第2四半期決算説明資料 P.32より)
メディアドゥグループはAIと人の力を掛け合わせたMDTSシステムを使った翻訳を実施したうえで、現地での流通・マーケティングまで一気通貫で支援する仕組みを構築しています。海外の出版市場における紙の本のシェアは9割近い国が多く、電子書籍が約35%を占める日本とは状況が異なります。まずは紙の本の流通網を確保したうえで、段階的に電子書籍やオーディオブックなども広く展開していく方針です。
メディアドゥの海外展開のはじまりは11年前に遡ります。北米で95%のシェアを持つ世界的な電子図書館プラットフォームを運営する企業・OverDrive社と2014年に戦略的業務提携を結び、OverDrive Japanとして同社の電子図書館サービスの日本展開を担っています。OverDriveのプラットフォームは、北米だけでなくヨーロッパ、アフリカ、北中南米、アジアなど、世界中の図書館で利用されており(公共図書館約2.2万館、学校図書館約6.4万館)、この長年にわたる連携により、メディアドゥは日本の出版社が世界中の図書館にアプローチできる強みを持っています。
現在、メディアドゥが電子図書館の許諾を受けている出版社は国内240社、海外許諾については198社(2025年9月末時点)です。出版社からは「まずは国内から始めて、海外にも展開できるのであればぜひ出したい」という声が多く聞かれます。
では、実際に海外市場には日本のコンテンツを求める需要があるのでしょうか。その裏付けを得るため、2025年8月に北米を訪問したメディアドゥの担当者に聞きました。
北米市場の実態を探る—OverDrive出張レポート
鹿室桃汰(かむろ・とうた)
IP・ソリューション事業本部 電子図書館推進センター マネージャー
2017年、メディアドゥに新卒で入社。電子図書館事業に参画し、社内運用や図書館サポート業務、全国の図書館向け営業チームリーダーを経て、現在は電子図書館事業、NetGalley事業を統括するマネージャー。
メディアドゥ 電子図書館推進センター マネージャー・鹿室桃汰さんが訪れたのは、OverDriveが本社を構えるオハイオ州クリーブランド。OverDrive社主催の図書館関係者向けカンファレンス「Digipalooza 2025」にも参加しました。
Digipaloozaは2年に一度開催される3日間のカンファレンスで、世界中から図書館関係者が集まります。OverDrive社の今後の方針、導入図書館の活用事例、オーディオブックナレーターのインタビューなど、電子図書館の最新動向を知ることができる北米最大規模のイベントです。
鹿室さんは、このカンファレンスに参加するとともに、OverDrive社や現地の図書館・書店も訪問し、北米市場における日本コンテンツの需要を調査しました。
コンテンツ内訳から見える北米電子図書館市場の特徴
OverDriveから提供された2024年の北米電子図書館市場のデータには、注目すべき特徴がありました。2024年、OverDriveを利用する北米図書館が”蔵書”として購入した電子コンテンツの売上構成比は以下の通りです。オーディオブックが売上の半分を占めており、日本の図書館ではまったくイメージできない比率です。
- オーディオブック:50%
- フィクション電子書籍:35%
- ノンフィクション電子書籍:10%
- 電子コミック:2%
- 電子雑誌:3%
- オーディオブック:14.1%
- 電子コミック:8.9%
- フィクション電子書籍:7.6%
- 電子雑誌:6.5%
- ノンフィクション電子書籍:-4.2%
前年比成長率でも、オーディオブックが14.1%と最も高い数字を示しています。一方で、売上構成比では2%のコミック分野も、8.9%と高い成長率です。
「現在、北米の多くの図書館の予算は電子書籍とオーディオブックで50:50くらいの配分になっています」(鹿室さん、以下同)
日本国内の図書館もオーディオブックが成長途上ではあるものの、ここまでの比率には至っておらず、オーディオブックの浸透度合や利用者ニーズの違いが表れています。北米はオーディオブックの拡大の一方で、文字ものの電子書籍(フィクション、ノンフィクションの合計)も売上の45%を占めています。OverDriveでは、オーディオブック部門の販売点数は68万点で、内訳はフィクション41.4万点(約61%)、ノンフィクション26.6万点(約39%)となっています。
「OverDriveの担当者によると、オーディオブックではビジネス書やハウツー系の作品も需要がありますが、それ以上に小説のような長編のフィクション作品の人気が高いようです」
オーディオブック人気の背景には、「長編書籍離れ」といえる現状があります。
「日本でもよく聞くことですが、北米でも長編小説を読む人口は減少傾向にあるそうです。一方で、オーディオブック、グラフィックノベル※、コミックが、あまり読書をしてこなかった人を取り込むことに成功していると聞きました」
※グラフィックノベル:主に北米などの海外で、長編でコマ割りされたマンガ形式の単行本を指す
OverDrive社はオーディオブック、グラフィックノベル、コミックといった新しい読書体験を提供するためのコンテンツを強化し、それらを入口として再び長編読書の習慣を育てる戦略を取っています。
現地で見た日本コンテンツへの需要
OverDrive社の担当者とのミーティングでは、日本コンテンツへの強い期待が語られ、北米には、翻訳された日本のコンテンツを求める市場が確実に存在することが明らかになりました。特に以下のような要望が挙げられたといいます。
- 翻訳コミックの拡充:ティーン向けを中心に、さらなるタイトルの追加
- オーディオブック化:小説作品の翻訳+オーディオ化をセットで展開
- トラディショナルコンテンツ:古典芸術、古典芸能なども翻訳すればニーズがありそう
「現在、北米の図書館において最もニーズがあるのはオーディオブックと翻訳コミックでした。OverDrive担当者からは『まだまだコンテンツが足りていない、どんどん翻訳してほしい』と、かなり強い期待が寄せられました」
さらに日本と異なり、出版市場で「コミック」よりも「文字もの」が占める割合が圧倒的に大きい北米ですが、鹿室さんが出張中に複数の書店を巡った際には、予想を超える規模のコミックコーナーが展開されていました。
「本棚1面、2面、3面…最大で6面ぐらいのコミックコーナーが用意されており、小説の棚に引けを取らないほどの規模でした。クリーブランドのような地方都市でこれだけの売り場があることに驚きましたし、翻訳された日本作品も想像していたよりもたくさん並んでいました」
日本作品のラインナップも興味深く、アニメ化、映画化されたようなメガヒット作品だけでなく、幅広いタイトルが現地で人気を集めていたといいます。
「ある方からは、2000年代後半に連載されていたほのぼの系の作品を『私の子どもが大好きなんです』と教えていただきました。日本人が『海外で人気が出る』と想定する作品と、現地で受け入れられる作品には意外とギャップがあるのかもしれません」
また、訪問した図書館にも翻訳コミックコーナーが設けられており、現地の図書館員によると「アクションものが特に人気」とのこと。ただし、北米においてコミックは「ティーンが読むもの」という認識が強いようです。
米国出版市場全体のデータ「紙が依然として最大」
ここまで北米の電子図書館市場のデータを見てきましたが、米国の出版市場全体ではどのような状況なのでしょうか。米国出版社協会(AAP)が発表した2024年の市場データによると、一般書(Trade Books)市場の売上構成は以下の通りです。
米国一般書市場の売上規模(2024年)
・紙の書籍(ハードバック、ペーパーバックなど):164.4億ドル
・電子書籍:21.7億ドル(前年比1.5%増)
・オーディオブック:約23.6億ドル(前年比22.5%増)
※米国一般書市場の売上構成比、売上規模の出所はいずれも米国出版社協会(AAP)「AAP Statshot Annual Report CY 2024」より、教材(Instructional Materials)を除く
紙の書籍が約164.4億ドルと最大の市場規模を持つ一方で、電子書籍は1.5%増、オーディオブックは22.5%増と、それぞれ成長を続けています。特にオーディオブック市場の成長率の高さが目立ちます。
他国の状況を見てもドイツ(紙94%)、韓国(紙88%)、イギリス(紙75%)など※、依然として紙の書籍が日本と比べ圧倒的に主流です。日本のコンテンツを海外展開する上では、紙の書籍の流通網確保が重要な要素となります。
※出所:WIPO「The Global Publishing Industry in 2022」
日本のコンテンツを海外へ届けていくために
今回のOverDriveのデータと現地調査、そして米国出版市場全体のデータは、翻訳された日本コンテンツを求める市場が北米に確実に存在することを裏付けています。
「日本のコンテンツをこれから海外にさらに広めていくためには、まず翻訳が不可欠です。その上で、読者が使いたいフォーマットに合わせるところも重要です」
現在、日本のコンテンツを海外展開するための一般的なプロセスは、日本の出版社が版権を海外の出版社に販売し、海外の出版社が翻訳やオーディオブック化のコストを負担して展開するというものです。
「多くのパターンでは、翻訳やオーディオブック化のコストを負担する海外の出版社が『これは売れる!』と選定した作品を展開しています。ただ、その選定の仕方としては日本ですでに人気な作品や、市場調査の結果、データ的にヒットが予測できるものを選ぶので、本来のポテンシャルを見過ごしてしまう可能性もあります。
『長い活字は苦手だけど、オーディオブックだったらぜひ読みたい』という需要もあり、その需要は北米図書館が購入したコンテンツの売上構成が物語っています。紙、電子書籍、オーディオブック、様々なフォーマットを出すべきだと思います。広大な世界の市場にチャレンジする機運は今、非常に高まっていると感じました。
日本とは文化が異なる海外では、日本でヒットには至らなかった作品を含め、想定と違った意外な作品が人気を集めるかもしれません。広大な可能性があって面白いところだと思います」
日本以上に現地で人気を集めている作品もあり、どんな作品が海外の読者に支持されるかは未知数です。この状況を踏まえ、メディアドゥは海外展開において世界の出版市場の大半を占める「文字もの」の書籍から始まり、その後はオーディオブック、そしてコミックの翻訳など、様々な形態で日本のコンテンツを世界に届けていく方針です。これにより、メディアドゥはこれまで以上に流通カロリーの低減、流通スピードの向上に貢献することを目指していきます。
メディアドゥは2025年4月に新中期経営計画を発表し、国内での電子書籍流通に加え、海外における紙・電子での文字もの、オーディオブック等を含むコンテンツ流通ソリューションをさらに進化させ、日本コンテンツのグローバル展開に貢献することを目指しています。
8月末に公開した統合報告書2025では、「CEOメッセージ」(P.9~P.16)、「フェーズ2:海外展開」(P.39~P.44)で、海外展開に向けた成長戦略をご説明しています。
▼メディアドゥ 統合報告書:
https://mediado.jp/ir/library/annualreport/
また、OverDriveが展開する電子図書館プラットフォームは、北米だけでなくヨーロッパ、アフリカ、北中南米、アジアなど、世界中の図書館にアプローチできる強みがあります。「OverDrive Japan」のサービス詳細、お問い合わせは下記をご覧ください。
▼OverDrive Japan サービス紹介ページ:
https://overdrivejapan.jp/