こんにちは。メディカム編集部 経営企画チームです。
メディアドゥの売上の約9割を占める電子書籍流通事業。出版社2,200社以上と電子書店150社以上の間に入り、電子書籍の配信・運用・キャンペーン管理などを一手に担う、メディアドゥの根幹を成す領域です。
今回話を聞いたのは、その電子書籍流通事業を担当する執行役員の大貫雄一郎さん。コンテンツ流通の現場で経験を積み、2015年にメディアドゥに入社。以来10年にわたり電子書籍流通事業を支えてきました。
大貫さんは、変化し続ける環境と事業の中で、どのような思いで仕事や人と向き合ってきたのか。その考えに迫ります。
執行役員 電子書籍流通事業担当
大貫 雄一郎(おおぬき・ゆういちろう)
2003年ブックサービス入社。ライブドア、ツタヤオンラインを経て、2015年メディアドゥに入社。ライセンスビジネス部、運用管理部を経て、2022年に運用管理本部長、2024年に執行役員(電子書籍流通事業担当)に就任。電子書籍流通事業全体の企画立案から運用管理まで、事業推進を担う。

紙より複雑だった「電子書籍」の世界
──メディアドゥに入社された経緯を教えてください。
大貫 前職時代に取り組んでいた電子書籍事業を通じてメディアドゥと取引があり、代表の藤田とは協業先として、書店立上げに向けて一緒に出版社を回らせていただいていました。とてもお世話になったので、前職の退職時にご挨拶に伺ったところ、藤田から「メディアドゥに来ないか」と声をかけてくれて。
2015年当時は、まだ社員数が50〜60名で、マザーズに上場(現:グロース市場、2013年11月)して間もない頃でした。事業というよりも、藤田の人柄や、少人数で一体感を持って仕事に取り組んでいる会社の雰囲気に惹かれて入社を決めました。

──入社後はどのような業務からスタートされたのでしょうか。
大貫 まずは各部署の責任者に話を聞きに回り、当社全体の状況を把握するところから始めました。その後電子書籍の取次業務の営業部門に専念することになり、1年後には運用管理の組織も担うようになりました。
正直にお話すると、もともと自分自身が紙の本に携わっていたので、入社前は「電子書籍に取次が必要なのか?」と少し疑問に思っていました。コンテンツはデジタルデータなのだから、ボタンひとつ押せば届くのではないか、と。
しかし、実際に現場に入ってみると、想像をはるかに超える複雑な世界でした。出版社ごとにコンテンツの仕様や届け方が異なり、電子書店ごとに求めるデータ形式やタイミングも違います。
紙の書籍や雑誌は長年の慣習で規格が確立されていますが、電子書籍はその規格が統一されないまま市場が拡大してきました。電子書籍データそのものも、2011年以降「EPUB」が普及するまでは、今以上に多くデータ形式が存在しました。また、連載形式の配信やキャンペーンなど、出版社と電子書店それぞれが読者により良い体験を届けるために様々な工夫を重ねています。 電子書籍取次の価値は、その間に入り、双方の意図を汲み取りながら柔軟に対応していくことにあるのだと、だんだん実感が湧いてきました。
──2017年には「出版デジタル機構」を子会社化し、その後の統合も経験されています。
大貫 あの統合は、メディアドゥにとっても、私にとっても大きな転機でした。両社それぞれに運用の仕組みがあり、どのように統合していくかという判断を迫られたんです。
今後の事業成長を考えたうえで、結果的に自分たちで築き上げてきた運用方法を変えることになりましたが、こうした変化を柔軟に受け入れていかなければ、事業は前に進みません。
私のキャリアをお伝えすると「電子書籍流通」という同じ業務に10年間いるように見えるかもしれませんが、実際には、その都度取り組みの中身が大きく変わっています。統合もその一つですし、取り扱うコンテンツの規模も10年前とはまったく違います。
──この10年で、コンテンツの規模はどの程度まで広がってきたのでしょうか。
大貫 現在年間で登録しているコンテンツ数は90万件を超えています。電子書籍には絶版という概念がないため、コンテンツは増え続ける一方です。
また、配信後も価格変更やキャンペーン対応といったオペレーションが継続的に発生します。基幹システムという仕組みの上に、経験を積んだメンバーの判断力や気配りが加わって、初めて成り立つ仕事なんです。

投げ出してはならない、責任が原動力に
──電子書籍流通事業を率いる立場として、どういった思いで仕事に向き合われていますか。
大貫 業界トップシェアを担っている以上、簡単に投げ出すことはできないと日々感じながら仕事に向き合っています。書籍や漫画などのコンテンツは生活インフラとは異なりますが、多くの方にとって必要なものです。
出版社と電子書店をつなぎ、コンテンツを確実に届け続けることは、もはや義務に近いと考えています。当社がその役割を果たせなくなれば、日本中の読者にご迷惑をおかけすることになります。
──そうした責任感は、いつ頃から意識されるようになったのでしょうか。
大貫 入社当初は、もっとふわふわした感覚だったかもしれません。当時はまだ会社の規模も小さく、シェアも今ほどではありませんでした。
出版デジタル機構との統合を経て取り扱い規模が大きくなり、お取引先のみなさまと顔を合わせ、お預かりしているコンテンツの重みを日々実感する中で、自然と芽生えてきたものです。この責任感が、事業に向き合い続ける原動力になっています。
正解のない問いに、ぶれない軸で向き合う
──入社以降、ずっとマネジメントの立場を担われていますが、意思決定の際に大貫さんが大切にされていることを教えてください。
大貫 子会社のオペレーション部門を含めると約200名のメンバーが電子書籍流通に関わっており、社外の出版社や電子書店の担当者の方々とも日常的にやり取りがあります。その中で私が最も大切にしているのは、判断の「一貫性」です。
出版社と電子書店の間に立つ仕事では、正解が一つに定まらない場面がほとんどです。メリットとデメリットが拮抗する判断を日常的に求められます。正解がないからこそ、明確に「選択肢のどちらを取っても同じ条件なのであれば、常に一つの同じ方向を選ぶ」という一貫性を自分に課しています。言うことが日によって変わってしまえば、社内外どちらであっても相手を困らせてしまうからです。
もうひとつ意識しているのは、将来を見据えた判断をすることです。電子書籍はコンテンツが蓄積されていく事業なので、今決めた運用方針が5年後、10年後の業務に直接影響します。
お取引先のご要望にそのまますべてお応えしていけば、短期的には喜んでいただけて、良い関係を築けるかもしれません。しかし、将来的に運用の負荷が高まることが想定される場合には、その時点でより持続可能な方法をご提案するようにしています。その場の対応だけでなく、お取引先にとっても当社にとっても長期的に望ましいかたちを一緒に考えていくことが、取次としての責任だと考えています。
──組織運営の面では、どのようなことを意識されていますか。
大貫 日々、膨大なオペレーションを担う現場では、どれだけ慎重に進めても想定外のことが起きる場面があります。そうした際に、個人に原因を求めるのではなく、組織として再発防止の仕組みを考えていくことを大切にしています。
業務を任せる判断をしているのは私自身ですから、なにか問題が起きた際の責任はまず自分にあります。品質をさらに高めていくための仕組みづくりに、チーム全体で前向きに取り組んでいく。その姿勢が根付いている組織でありたいと思っています。
変化を楽しめる人が活きる場所
──10年にわたりメディアドゥの電子書籍流通事業に携わってこられた中で、この仕事のおもしろさはどこにあると感じていますか。
大貫 電子書籍市場も当社の事業も、いまだに変化の過程にあるという点が最も大きいですね。東証マザーズ上場から東証一部への市場変更、出版デジタル機構との統合、業界トップシェアの確立と、同じ会社にいながらも環境が何度も大きく変わりました。その都度、新しい課題が生まれ、同じ仕事をしているようでも、実際には常に新しい業務に取り組んでいます。
また、藤田や花村(取締役COO)のように、事業に対して圧倒的な熱量と当事者意識で向き合う存在がすぐそばにいることも、この仕事を続けてこられた大きな理由のひとつです。自分がまだ到達できていない水準が常に目の前にある環境にいるため、ここで成長を止めるわけにはいかないという緊張感を与えてくれます。
──メディアドゥにはどのような方が向いていると思いますか。
大貫 変化を恐れないというより、「変化そのものを楽しめる方」が向いていると思います。当社には、誰の意見であっても受け止める文化がありますし、自分で考え、動き出せる方にとっては力をとても発揮しやすい環境があります。
電子書籍の運用というオペレーション業務は地味に思えるかもしれませんが、現状維持するためだけでも、常に改善が求められるクリエイティブな要素があります。正確さと丁寧さに加え、必要に応じて従来のやり方を見直し、切り替えていく判断力がある方であれば、活躍できる場がたくさんあると思います。

本業を揺るぎないものに、その先に新しい柱を
──今、メディアドゥはSC(Sustainability Creation)事業など新たな領域にも踏み出しています。電子書籍流通事業を担当される立場から、会社全体の変化をどのように捉えていらっしゃいますか。
大貫 率直に言うと、SC事業が本格化する前は、その意義をしっかりと実感しきれていませんでした。
ただ、電子書籍市場がいずれ成熟期を迎える中で、新しい柱を立てていくことの必要性は強く感じており、スピード感をもって確立させるには、むしろ電子書籍流通とはまったく異なる領域の方が可能性があるのではないかとも感じていました。
「徳島ガンバロウズ」の黒字化を目の当たりにして、その考えが確信に変わりました。藤田が長年にわたり徳島で築いてきた人脈と信頼に加え、がんばろう徳島の代表の臼木をはじめとする現地のチームが事業を垂直に立ち上げ、かたちにしていった。
既存領域とは異なる場所で事業を育てることが、結果的に電子書籍流通事業にも新しい価値をもたらしうるのだと実感しています。出版社の方をガンバロウズの試合にお招きしたり、コラボレーションの可能性を探ったりと、これまでにない接点も実際に生まれ始めています。
新たなことに挑戦するには、電子書籍流通事業が揺るぎないものであることが大前提です。新しい柱を立てるにしても、本業がしっかり伸び続けていなければ意味がない。本業を盤石にした上で、その先に新しい可能性が広がっていくという順序を、常に意識しています。
──電子書籍流通事業の今後については、どのようにお考えですか。
大貫 デバイスや読書体験のかたちがどのように変化しても、コンテンツを集約し、整理して届ける役割は必要とされ続けると考えています。仮に脳内にコンテンツをインストールできるような時代が来たとしても、届ける前に情報を整理する仕事は残る。新しいデバイスや配信形態が登場すれば、取次が果たすべき役割はむしろ広がります。
もちろん、そのために当社が品質と柔軟性を磨き続けることが前提です。
また、海外に日本のコンテンツを届けるための流通基盤を整えるべく、Seven Seas社がグループにジョインしたことは大きな意味を持っています。日本のコンテンツを海外に届けられる体制が確立できれば、日本の事業で出版社のみなさまと培った揺るぎない信頼関係と思いを背負い、当社グループが惜しみなく力を尽くすことで、さらに国内トップシェアとしての役割を果たしていきたいと思っています。
──最後に、これからの10年に向けた思いをお聞かせください。
大貫 執行役員に就任してから、事業単体ではなく会社全体の方向性について考えるようになりました。電子書籍流通事業の現場を長く歩いてきたからこそ見える景色がある一方で、それだけでは足りないことも実感しています。メディアドゥが将来にわたって必要とされるために、これからのメディアドゥの姿をどう描いていくか、真剣に向き合い、より広い視野で考えなければならないと感じています。
入社当時は、少人数でみんなが一緒にものごとを動かしていく会社の雰囲気に惹かれて入社しました。その後、上場市場の変更や統合を経て組織が大きくなっていく過程で、自分が惹かれた雰囲気が薄れていくような感覚があり、正直なところ戸惑いを感じた時期もありました。しかし今は、入社当時とは比にならないほどの大きな規模で、全員が一致団結して新たな領域にチャレンジできるチャンスが来ていると感じていて、楽しみで仕方がないです。
出版社のみなさまが生み出してくださるコンテンツがあり、電子書店のみなさまがそれを読者に届ける場をつくってくださっている。その間に立つ当社の役割は、これからも変わりません。若い世代が力を発揮できる環境を整え、変化を一緒に楽しんでいく。それが、これからの自分の重要な業務だと思っています。
おわりに
取次は必要なのか──。入社前にそう感じていた大貫さんが、10年を経て語るのは「投げ出せない」という責任感でした。正解のない問いに向き合い続ける日々も、すべては「ひとつでも多くのコンテンツを、ひとりでも多くの人へ」届け続けるため。変わり続けなければポジションは維持できない。その言葉は、出版社と電子書店の間に立ち続けてきた現場から生まれたものです。メディアドゥはこれからも、その役割を担い続けていきます。