CSO/CFOメッセージMESSAGE from the CSO/CFO

統合報告書2023(2023年8月31日発行)より

資本コストや株価を常に意識しながら市場と対話するとともに、適切なリスクテイクと事業ポートフォリオの最適化を通じて、持続的な企業価値創出を果たしていきます。

取締役 CSO 兼 CFO 苅田明史

2023年2月期(中期経営計画初年度)の総括


当社グループにおける2023年2月期の連結業績は、売上高1,016億円(前期比–2.9%)、営業利益23.9億円(前期比–14.9%)、EBITDA38.6億円(前期比–1.5%)、当期純利益10.5億円(前期比–33.0%)と、前期と比べて減収減益となりました。これには、主要取引先であったLINE Digital Frontier(株)が運営する「LINEマンガ」の商流変更*1を主因として、前年に実施された一部書店による大型キャンペーンの反動減や成長投資の継続、事業ポートフォリオの見直しによって一部子会社の株式譲渡やサービス終了等を要因とする減損を計上したことが背景にあります。ただし、減収減益については期初から見込んでいた一方で、第3四半期に上方修正を公表し、結果的にはさらにそれを上回って着地したことを踏まえると、新たな中期経営計画(以下、本中計)の初年度としては順調に推移したと評価しています。

当社が主戦場とする電子書籍の市場環境に目を向けると、新型コロナウイルス感染症の収束により、屋内で楽しむエンタテインメントへの需要の高まり、いわゆる「巣ごもり需要」は一巡し、成長率は巡航速度に回帰したと考えています。当社も感染症拡大期においては20~40%の高い売上高成長率を記録しましたが、上述した一過性の要因を除いた売上高は前期比で約11.2%の成長となり、これまでの急拡大フェーズから、電子書籍市場のオーガニック成長に準じた堅調な成長フェーズを迎えているといえます。

*1 詳細は2022年4月14日付ニュースリリース「主要取引先との取引状況と今期業績予想に関するお知らせ」に記載

電子書籍流通事業における主要取引先との取引推移(億円)

電子書籍流通事業における主要取引先との取引推移(億円)

2024年2月期の連結業績見通し


こうした中、本中計2年目にあたる2024年2月期は、残念ながら前期に続いて減収減益を見込んでいます。一番の要因は、電子書籍流通事業におけるLINEマンガの商流変更に伴う減収影響が今期も一部生じることによるもので、具体的には2023年2月期時点のLINEマンガ向け取引額約130億円(2022年2月期の売上高は約190億円)のうち、当社が独占契約を結んでいる出版社との取引額15億円程度を残して、2023年2月期比で115億円の減収を見込んでいます。この減収要因をカバーし、電子書籍流通事業が今後どのように回復・成長していくかのポイントは3つあります。電子書籍市場の成長性、その中での当社シェアの維持、そして(株)クレディセゾンと協働して運営する電子書店「まんがセゾン」への注力です。

電子書籍市場の成長性については、巣ごもり需要に裏打ちされた高い成長を続けることは今後難しくとも、紙本から電子書籍への移行トレンドは不可逆であり安定成長が続くものと考えています。特に国内電子書籍市場はこれまで紙のマンガが電子コミックに切り替わることによって牽引されてきましたが、縦スクロールコミック等の新たなコンテンツが伸びていますし、文字ものなど一般書の電子化の普及期はこれから到来するものと期待しています。こうした電子書籍市場そのものの成長が当社の事業成長に大きく結びついていることから、ステークホルダーの皆様への経営指標提供の一つとして、月次流通成長率の開示を2023年4月より開始しています。電子書籍市場が発展すればするほど、売上管理、キャンペーン管理等作業工程が多くなり、煩雑な事務が発生します。一元管理のために当社に委託したいという需要も増加することから、LINEマンガ移管によって一時的に減少した当社シェアも今後は回復するものと予測しています。

次に、当社がクレディセゾンとの資本業務提携とともに運営をスタートした電子書店「まんがセゾン」は、ポイント還元率が高い点が差別化要素です。まんがセゾン会員は常時50%のポイント還元を受けることができ、これは他社がなかなか追随できない水準です。また、クレディセゾンが提供する永久不滅ポイントとの連携も可能になりました。同社の経営計画や目標も見据えつつ、永久不滅ポイント保有者や新規のクレジットカード会員に対してどのようなサービス展開・プロモーションをしていくかを、引き続き連携しながら取り組んでいきます。

他方、本中計で掲げる第二の収益軸の構築に向け、今後の成長を期待している戦略投資事業は、いずれもこれまでの投資フェーズから収益改善フェーズへと移行していきます。特に、FanTop事業や、縦スクロールコミックを含むIP・ソリューション事業は本中計において掲げる業績目標達成において重要な事業と考えているため、KPIなどの開示体制を整えていく予定です。2024年2月期を連結業績のボトムと位置付け、売上・利益の再成長に向けて、まずは戦略投資事業の赤字縮小、黒字化を目指します。

セグメント別業績数値予想

セグメント別業績数値予想

株主還元方針


こうした将来の成長に必要な投資を継続する一方で、当社は株主の皆様に対する利益還元を重要な経営課題と認識しています。そのため、内部留保を確保しつつ、財政状態及び業績動向等、経営状態を総合的に判断して利益配当を行っていくことを基本的な方針としており、総還元性向*230%以上を目標として掲げています。2023年2月期については、減収減益予想であったことや、株主の皆様に当社の今後の事業成長に対する考え方を明確に伝えるメッセージが必要であると考え、自己株式の取得(上限10億円)を実施しました。

一方、2024年2月期については自己株式の取得の実施(上限5億円)に加えて、22円00銭の期末配当を実施する予定です。自己株式の取得と配当の実施を組み合わせた株主還元とした背景は主に2つあります。1つ目は、足もとの当社の株価水準は割安であると評価していることです。これは、2017年に(株)出版デジタル機構を買収し、PMI*3の完遂によって業容が大きく拡大、業界におけるポジションを確立したことで企業価値の向上が図られたと認識する一方、株価動向は当時の水準を下回り、2022年4月に実施した自己株式取得時の株価をも下回る動きとなっているためです。

2つ目は、今期から電子書籍流通事業が再び安定成長に回帰することや、戦略投資事業の赤字縮小、黒字化を見込んでいる、というコーポレートメッセージをお伝えすべく、復配を予定しています。配当金額については、今期の親会社株主に帰属する当期純利益予想額11.0億円に対して総還元性向30%を乗じ、22円00銭とする予定です。また、今後の投資計画に基づいて内部留保を考慮しながらも5億円の自己株式取得を行った結果として、2024年2月期末時点の総還元性向は75.6%と想定しています。なお、自己株式取得については、2023年5月1日に完了し、EPS*4向上の観点から5月末をもって全てを消却しています。

今後も株式水準や財務状態を考慮しながら、株主をはじめとするステークホルダーの皆様に対するメッセージとして配当と自己株式取得の実施を検討していきます。

*2 総還元性向=(配当金支払総額+自己株式取得総額)÷親会社株主に帰属する当期純利益
*3 PMI=Post Merger Integration
*4 EPS=1株当たり当期純利益(Earnings Per Share)

株主還元の実績と予定

株主還元の実績と予定

戦略投資事業の成長に向けた事業展開と財務戦略


事業成長に向けては、引き続きM&Aも選択肢の一つですが、本中計下では、これまでとは考え方を異にしています。

これまでは、電子書籍流通事業を核とし、そこで培われた営業力やネットワークを使って買収対象会社の成長ポテンシャルを高められると見込まれる場合には積極投資をしてきました。その結果、例えば2016年に買収した(株)フライヤーは、一度通期黒字化したものの、再度投資フェーズを経て売上規模は数倍に成長しました。このように今後、当社業績に対しプラスの貢献が見込まれる企業も出てきています。また、2017年に買収した出版デジタル機構は当社において最大のM&Aであり、当社よりも事業規模が大きな会社とのPMIであったことから高難度の案件でしたが、経営・組織・事業それぞれを融合させ、大きな成果を得ることができました。

一方で、M&Aによって取得したグループ会社のいくつかは、撤退や売却を進めた案件もあります。外部環境の変化によって収支が悪化したケースもありましたが、一番の課題はPMIを成功させるために必要なチームや現場力が不足しているということでした。当社が持つ営業力やネットワークによって顧客やコンテンツ獲得が進む、というシナジー追求を優先したM&Aを行ったとしても、経営基盤が整備されていなければ僅かな環境変化でも会社が大きく揺らいでしまい、シナジー創出に至る前に火消しの作業に追われてしまう、ということが発生していました。そのため2022年に私が取締役に就任し、まず着手したのは事業ポートフォリオの見直しでした。具体的には、資本コスト7~8%を一つの指標にし、ROICがそれを下回る事業や子会社については事業計画の変更やピボット、もしくは撤退することで、事業ポートフォリオを適切に保つことを意識しています。それによって分散していた経営リソースを有力投資領域に集中させ、今後M&Aを実施する場合においても、経営リソースに余力があるかどうかを重要な判断軸として検討したいと考えています。

また、当社は2020年10月にエクイティファイナンスの実施を発表し、証券会社割当型新株予約権の発行による約45億円と、2021年3月に決議した(株)トーハンとの資本業務提携による約30億円の合計約75億円を調達しています。このファイナンスの目的は、財務健全性の向上と投資資金の獲得にあります。同ファイナンス前、2020年2月期末時点の自己資本比率は17.0%となっており、2017年の出版デジタル機構買収をはじめとして、様々な投資実行によって膨れ上がったのれんと投資有価証券の総額に対して純資産が下回っており、仮に大きな減損等が発生した場合には債務超過となるリスクがありました。同ファイナンスを経た2023年2月期の自己資本比率は32.8%となり、純資産はのれんと投資有価証券の総額を上回っており、安全性は以前に比べて大きく改善したと考えています。

このファイナンスによって獲得した資金は、主にM&Aに活用しました。これらのM&Aの中には、(株)日本文芸社や(株)エブリスタのように作品の映像化といったメディアミックスが奏功して当初計画した以上の成果が得られている案件もある一方で、一部の子会社においてはまだ投資フェーズが継続しています。また、トーハンとの資本業務提携はFanTop事業の立ち上げや電子図書館事業の拡大などでシナジー効果を生み出していますが、投資額に対して十分なリターンとはいえません。今後も事業ポートフォリオの見直しに加え、買収子会社のPMIや資本提携先とのシナジー追求を通じて、ROE8%以上を早急に達成していく考えです。

連結業績数値予想(億円)

連結業績数値予想(億円)

戦略遂行を支えるサステナビリティへの取り組み


取締役 CSO 兼 CFO 苅田明史

ここまで企業戦略・財務戦略の観点から当社グループの成長可能性をご説明してきましたが、他方で私はコーポレート管掌取締役として、こうした戦略を支える基盤や経営資源の充実と強化もミッションです。当期の大きな目標は、当社グループの重要な経営課題(マテリアリティ)を特定することでした。委員長を務めるサステナビリティ推進委員会を中心として、各事業部門の責任者と密なコミュニケーションを図りながら広く事業におけるリスクと機会を改めて洗い出すとともに、様々な社会課題やステークホルダーからの要請などと照らし合わせながら、中長期にわたって当社グループが持続的に成長していくために不可欠なファクターは何か、またそれが社会にとってもインパクトを与え得るものなのかを、現場も巻き込みながら進めました。おおよそ1年をかけて分析・評価、そして経営会議や取締役会での複数回の議論等を経て、10項目のマテリアリティを特定し、2023年5月に公表しました。

この特定プロセスの中で、より強化していく必要があると改めて認識したのはやはり人的資本戦略と情報・データセキュリティへの対応です。特に人的資本については、当社のように創業からまだ四半世紀ほどしか経っていない若い会社にとって、仕組みと人材こそが最大の経営資源です。当社では現在、中途入社者の割合が7割程度となっており、年齢や性別を含め、様々なバックグラウンドやスキルセットを有した人材に最大限能力を発揮してもらうために必要なことは何か、育成制度や定着に向けた施策は十分か、他社に見劣りしない、つまり多くの人から選ばれる職場環境が提供できているかなどを分析・評価したうえで、目指す姿との整合を取りながら真のダイバーシティ&インクルージョンへと繋げていきたいと考えています。データ・情報セキュリティも同様で、安全・安心な著作物の流通・頒布インフラを作り上げることが、当社への信頼を確かなものにしていくだけでなく、知的創造物を広く頒布することに繫がる、つまり企業理念へと直結します。

このように、特定したマテリアリティへ一つずつ対応していくことがリスクマネジメントや経営資源の確保、そして企業理念の実現へと繋がっていくものと考えています。今後はモニタリングすべきKPIをしっかりと定めながら、100年続く組織を目指すとともに、持続的な企業価値と社会的インパクトの創出に努めていきます。

2023年8月
取締役 CSO 兼 CFO
サステナビリティ推進委員会委員長
苅田 明史

統合報告書2023
RECOMMEND
統合報告書2023

- 報告対象期間:2023年2月期(2022年3月1日 - 2023年2月28日)
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