統合報告書2021(2021年9月1日発行)より

変革の時代を乗り越え、出版業界や出版文化が後世まで発展しつづけるために。メディアドゥは、既存の枠組みや固定概念を超えて新しい世界を皆様にお見せしてまいります。


代表取締役社長 CEO 藤田恭嗣


#1 メディアドゥの存在意義足もとと未来を見つめ直す


代表取締役社長 CEO 藤田恭嗣

現在、Society 5.0に代表される社会の変化、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大に伴う産業構造やライフスタイルの変化、そして、巣ごもり(外出自粛に伴い自宅で過ごす)需要の影響による電子書籍の一層の利用促進など、出版業界は急激な事業環境変化への対応、デジタルシフトの必要性にさらされています。その一方で、出版業界は長らく紙の本や街の書店といったフィジカルの世界が中心であったため、一部を除いて業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)やコンテンツのデジタル化に対するノウハウが乏しい現実もあります。そうした出版業界にあって、当社はテクノロジーを武器に電子書籍取次事業者として電子書籍市場の拡大に貢献し、今では国内No.1の地位を確立するに至っています。

この変革の時代において、2,200以上の出版社、150以上の電子書店との強固な取引基盤を強みに持つ当社が成すべきことは何かと考えました。それは、テクノロジーの力でコンテンツのデジタル化はもとより、出版プロセスの効率化や出版バリューチェーンの高度化を進め、素晴らしい作品が絶えず多く生まれる環境を維持・発展させること。そして、デジタルコンテンツの新たな利用方法を提案し、コンテンツが持つ価値をさらに高めることです。デジタルデバイスの進化に伴い、多くの人が手元で映像やゲームなど多様なコンテンツを楽しめるようになった今、有史以来、文化や社会を形成してきた人々の叡智である著作物(コンテンツ)を扱ってきた出版業界・出版文化のあり方が問われていると感じます。
出版業界や出版文化が後世まで発展し続けるためには、これまで当社が得意としていた、流通にかかるコストや手間を軽減し、電子書籍市場を活性化するだけではなく、紙も含めた出版ビジネスにまでより広くより深く根ざし、最新のテクノロジーを業界プレイヤーに提供することで、業界変革・DXを仕掛け進化を促していく。これがこれからの当社グループにとって重要な価値提供のあり方であり、存在意義であると考えています


#2 進化するPublishing Platformer メディアドゥが成すべきこと


国内コミック市場では6割以上を電子書籍が占めるまでに拡大し、今後もこのトレンドは継続していくと見込まれています。コロナ禍の巣ごもり需要も相まって、多くのマンガを提供する大手出版社の中には当期最高益を出している企業もあります。その一方で、出版業界全体として見てみると、中小出版社のデジタル化への対応は遅れ、小説や教養書といったテキスト系のコンテンツは6%、雑誌系コンテンツは2%のみのデジタル化に留まり、徐々に人々の目に触れる機会を失ってしまいかねない状況です。セレンディピティ(偶然の出合い)を売りにしていた街の書店は構造的な問題を抱え、デジタルコンテンツを扱おうとしても、体制やバリューチェーンの構築には多くの時間やコストを要します。
このように、現在の出版業界は一部のプレイヤーのみが潤う、優勝劣敗の状況にあります。しかしながらこうした状況は、多様な価値観に基づくコンテンツが生み出される我が国の自由な出版文化にとって懸念すべき暗雲であると感じます。このような業界内の不便を解消し、当社のノウハウやシステムで業界のDXを推進することで、出版文化を支えてきた中小出版社や街の書店を活性化し、世の中にさらに素晴らしいコンテンツが生み出され続けるエコシステムを構築・改良することこそが、私たちの責務なのです。

そうした中で2021年2月期は、私たち自身の提供価値のあり方を見つめ直し、一層変わっていかなくてはならない、変えていかなくてはならないという想いを目に見える形で社内外に示すための1年でした。これまで、私たちの経営方針として掲げていた「Publishing Platformer」という言葉は、電子書籍市場における流通カロリーを低減することで、電子書籍市場を一層拡大する、という経営方針を指していました。そこから、紙・電子双方の出版業界全体、さらにはその他のコンテンツ市場も視野に入れながら、バリューチェーン全体に対してより高い付加価値を提供することで、業界に対しDXを含めたGame Changeを仕掛けていく存在、と「Publishing Platformer」の意味を再定義したのです。

また、さらなる成長投資やM&Aによる必要な機能・サービスの獲得に向けて、2020年10月に新株予約権の発行による当社としては上場後初の資金調達を実施しました。調達した資金のうちの大半はM&A、もしくは資本業務提携に充当し、2020年10月に子会社化したマンガアプリ等を運営する(株)Nagisaを皮切りに、2021年1月に当社の子会社Media Do International, Inc.がFirebrandグループの買収を完了しています。
Firebrand事業は、SaaS型出版ERPシステムにおいて米国ではシェアNo.1を獲得しており、その顧客ネットワークを活用し、当社グループのグローバル展開を推進するとともに、出版業界のDXで先行している米国の出版業界が持つ最先端のノウハウを日本へ転用・導入し、業界のDXを加速させていくことを企図したものです。そして仕上げとなったのが、今期に入ってからの3月に実施した(株)トーハンとの資本業務提携と(株)日本文芸社の買収です。
前者については、当社が電子書籍流通で培ってきたノウハウやテクノロジーと、トーハンが有する経営資源や紙書店・紙本流通のネットワークといった、両社の強みを活用しながら、出版業界のDXを強く後押しするものです。後者については、当社のインプリント(次世代出版)構想の実現に向けて、紙・デジタル両方を意識した戦略的なコンテンツ制作体制を構築するための大きな一歩として位置付けています。

財務的な側面においても、2017年の(株)出版デジタル機構買収後、自己資本比率は低水準が続いていましたが、今回の資金調達によって28.0%(2021年2月末時点、資金調達前の2020年8月末に比べて9.7ポイント改善)となり、財務健全性の改善も図ることができたと認識しています。

また、2021年2月期は売上高が835.4億円、営業利益が26.6億円、親会社株主に帰属する当期純利益が15.1億円と、売上高・利益とも過去最高を更新し、事業拡大と将来の飛躍に向けた布石を打つことができた1年であったと捉えています。


#3 目指す姿の実現に向けてスタートを切る 2022年2月期の具体的な施策と進捗


2022年2月期は、これまでの土台をより強化しながら紙・電子双方含めた出版業界全体のプロセスを効率化し、かつデジタルコンテンツの価値を向上させるべく、大きく動き出す年だと考えています。先述の「Publishing Platformer」の再定義と併せ、成長戦略も見直しました。新たな成長戦略の骨子は3つで、「DCA(Digital Content Asset)®の実現」「出版業界におけるDXの推進」「新サービスの創出」です。

「DCA®の実現」とはすなわち、これまで「消費」しかされてこなかったデジタルコンテンツに、「所有」や「個数」の概念を持たせることで、新たなデジタルコンテンツの楽しみ方を提唱するものです。これまでのデジタルコンテンツはいつでもどこでも買える・使える利便性が売りでしたが、誰が使っていても同じもので、「自分だけのもの」という特別感を覚えることはなかったはずです。しかし、ブロックチェーン技術を用いることで、これからのデジタルコンテンツには「世界に一つしかない」「自分だけの」といった、これまでは実際に触れることができる物体にしかなかった特徴を付与することが可能になるのです。そのため、私たちは2018年からブロックチェーン技術に着目し、研究開発を進め、このたびついにその社会実装が現実味を帯びてきました。

代表取締役社長 CEO 藤田恭嗣

具体的には、NFT(Non-fungible Token/非代替性トークン)によるデジタルコンテンツのサービスリリースを予定しています。その第一弾として、トーハンとNFTを活用した「デジタル特典」サービスを開始することが決定しました。このサービスは、書店を訪れて紙書籍を購入する読者を対象に、NFTを活用したデジタルコンテンツを本の付録として付与するものです。「デジタル特典」は書店にとって、以前まで紙書籍に付いていた実物の付録と異なり、配送や管理、返品された際の処理という観点で流通カロリーの低減や効率化が可能となるほか、「デジタル特典」付加により、紙本の販売価格を引き上げる効果と、販促効果、つまり付録コンテンツを目的にファンの方が多く訪れることで、書店の売上増加に貢献することが見込まれるなど複数のメリットがあります。具体的な付録の企画は、(株)KADOKAWA、(株)講談社、(株)集英社、(株)小学館といった大手出版社や、そのほか多くの中小出版社と開発を進めています。また、「デジタル特典」のマーケットプレイスの提供も予定しています。このマーケットプレイス上では「デジタル特典」の売買や交換を行うことができ、ファン同士の交流やコミュニティの活性化を期待することができます。

上記サービスの実現に向けて出版社と協議する中で、まずは映像や音楽、デジタル版のトレーディングカードといった既存のコンテンツを「デジタル特典」として提供したいと考えています。そして、何よりも、他のNFTマーケットプレイスとは一線を画し、投機的ではないマーケットプレイスを提供することにより、多くのユーザーが「デジタルコンテンツのアセット化」を気軽に体験し、安心して購入、売買していただくことで、このDCA®市場の裾野拡大を目指したいと考えています。その先には、NFTを活用した、これまでに見たこともないようなデジタルコンテンツ産業が立ち上がることもあるかもしれません。

「出版業界におけるDXの推進」では、海外に比べて遅れている中小出版社のDXを支援・推進することを目指します。例えば、印刷部数に基づいて作家への印税額が決定する紙書籍と異なり、電子書籍は実売数に基づいて印税が決まること、またそのデータを毎月、半永久的に把握しなくてはならないことから、仕組みが全く異なります。一方で、そうした管理システムや体制を開発・構築するには莫大なコストや労力がかかるため、出版社によってはデジタル化への障害になっているのです。

そのため当社は、売上・印税を効率よく管理することができるSaaS型出版ERPシステムの開発を進めてきました。すでに2021年3月より一部の出版社への提供を開始しており、年内のサービス提供開始を見込んでいます。将来的には、米国での出版ERPシステムとしてはNo.1のシェアを誇るFirebrandグループが持つノウハウと融合し、本をつくる工程やマーケティング機能なども追加し、さらに利便性の高いシステムへと昇華させていくことを構想しています。

また、Firebrandグループ内の別事業であるNetGalleyは、全国の紙書籍流通に大きな変革をもたらす可能性を秘めています。NetGalleyは、これまでは紙で提供されていた出版前の書籍のゲラ(校正刷り)を、デジタルで会員(書店員や司書などに限らず一般の方も含む)に提供し、会員から寄せられたレビューを参考に販売促進や販売予測に生かすことができるサービスです。全国の書店のビジネスモデル転換を目指してトーハンが提唱する「マーケット・イン流通」に活用すれば、業界の課題である返本率の改善などに貢献することができるのではないかと期待しています。当社の電子図書館事業においても、トーハンの全国の書店網を活用し、地域の学校や公共図書館への導入を推進していきます。

「新サービスの創出」については、当社の業界におけるポジションを生かし、M&Aや新規事業創出によって、電子書籍流通の周辺事業の拡大に努めます。その一つである「インプリント事業」においては、このデジタル社会において、さらに拡大するデジタルエンターテインメントコンテンツ市場におけるライセンス獲得を積極的に行うため、子会社化した日本文芸社のデジタル発のコンテンツ制作力を強化し、デジタルマーケティングの活用やバックオフィスの効率化などのDXを進めることで、次世代出版社のロールモデルとして、今後も積極的にコンテンツを保有する出版社との連携、グループ化、ソリューション提供を加速するための礎を築きたいと考えています。

新サービスのもう一つの軸は「メディア事業」で、その一翼を担う(株)MyAnimeListはさらなる規模拡大を目的とした第三者割当増資を実施し、うち6億円を当社、講談社、集英社、小学館の4社で引き受けることとしました(その後、2021年5月に約3億円を4社が、6月にも(株)電通グループを含む数社が約4.5億円を追加で引き受け、総額13.6億円の増資を実施)。海外における日本のアニメ・マンガ需要は年々高まりを見せており、日本発コンテンツの世界展開に向けて日本のIP(Intellectual Property:知的財産)ホルダーが協働していく形が取れたのではないかと考えます。

* デジタルコンテンツアセット、Digital Content Asset及びDCAは(株)メディアドゥの商標登録です。


#4 重要課題に取り組み、企業として揺るぎない基盤を構築する 持続可能な強い企業体の構築に向けて


この先も出版・コンテンツ業界に貢献するためには、持続可能な強い企業体をつくり上げていく必要があります。当社は現在、技術基盤の強化、組織力の向上、透明性の高いコーポレート・ガバナンスの実現の3つを特に進化させていく必要があると認識しています。

当社は電子書籍流通の中核として圧倒的な「Position」を確立することができました。一方で、もう一つの強みである「Technology」については、可用性やセキュリティを含めて一層注力していく必要があります。特に技術開発を担うエンジニア人材の強化は重要課題と捉えています。既存のエンジニアが成長できる環境をつくるのはもちろんのこと、新たに優秀な人材を獲得するため、採用にも力を入れていきます。2021年6月からは、エンジニア採用チームを社長直下の組織に移管しました。世の中のDXが加速する中、エンジニアの需要はますます高くなっていますが、私たちのビジョンや経営戦略に即した人材を十分に確保することはもとより、採用したエンジニアが会社とともに成長できる環境を整えていくために、さらなる環境改善や評価制度の変更などに取り組んでいきます。また、当社が業界からの信頼を保ち続けるためには情報セキュリティの確保が必須です。電子書籍コンテンツの漏洩防止はもちろんのこと、これから期待されるBtoC事業の拡大に備え、個人情報の取り扱いも含めて、細心の注意を払って、システムや体制の強化が不可欠であると認識しています。

組織力の向上については、長く働いている社員はもちろん、中途入社の社員が活躍できる会社づくりを目指していくことが必要で、そのために評価・育成の仕組みを整えています。より高い目標設定と実行力の向上のために2019年に新たに導入した人事評価制度は、1年間の運用を経て、手応えを感じるとともに、改善すべき点も見えてきました。

コーポレート・ガバナンスに関しては、私が創業社長ということもあり、コーポレートガバナンス・コードのような第三者のガイドラインを踏まえて制度や体制を一つひとつ充実させていくことで、これまで以上に透明性と実効性を担保していく考えです。具体的には、新たにコーポレート・ガバナンス基本方針を制定し、当社のガバナンスに関する基本的な考え方を公表したほか、2021年6月からは指名報酬諮問委員会を設置し、経営の客観性や合理性を確保する枠組みを設けました。取締役に関してもスキルマトリックスを作成することでそれぞれの役割を可視化するとともに、独立社外取締役として当社初の女性役員が就任したように、組織の根幹からさらなるダイバーシティ推進を図っていきます。


#5 Beyond Expectation どのような時代の流れや変化にも適応し、価値を創出できる存在


代表取締役社長 CEO 藤田恭嗣

現在のビジョンである「ひとつでも多くのコンテンツを、ひとりでも多くの人へ」は、電子書籍取次によって市場拡大を実現すべく、今から約10年前に掲げた考え方です。そして現在、多くの方々が電子書籍を利用する時代になってきたことで、次にメディアドゥが目指していく世界、ターゲットにしていくべきビジョンや存在意義を改めて振り返るタイミングにあるというのは冒頭で述べさせていただいた通りです。電子だけではなく、紙を含めた出版業界全体のDXを促進する。ブロックチェーンによりデジタルコンテンツの価値を高め、それが当たり前のようにやり取りされる世界をつくる。これらの実現には高いハードルが存在し、現在は実現に向けた様々な投資を行っている段階にありますが、出版業界、コンテンツ業界、そして、当社自身にも成長に向けたポテンシャルが未だ多く秘められていると考えています。

この1年間で、社員の経営に対する意識が変わったと感じています。当社は2020年に初めて発行した統合報告書を全社員に配布しました。社員にとっては、外部から見たメディアドゥや自分たちの姿を改めて認識し、背筋を伸ばす良い機会となったと捉えています。また、資金調達や将来を見据えたM&Aが行われ、異なる文化に触れたことで、当社の成長戦略や進む方向性を再確認し、社員一人ひとりが実現に向けて何を成すべきかを考える重要な契機となりました。

常に業界の未来を見据える。組織が一丸となり経営力、基盤を整え、先手を打って戦略を実行していく。自らの確固たる使命を強く胸に抱きながら、既存の枠組みや固定概念を超えて、新しい世界をステークホルダーの皆様にお見せしてまいります。

2021年6月
株式会社メディアドゥ
代表取締役社長 CEO
代表取締役社長 CEO 藤田恭嗣


RECOMMEND
株式会社メディアドゥ 統合報告書 2021

・報告対象期間:2021年2月期(2020年3月1日 - 2021年2月28日)
・PDFファイル:7.2 MB